最高裁判所第三小法廷 昭和24年(オ)357号 判決
上告人(原告) 大木貞次
被上告人(被告) 松見博正 外一名
一、主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
二、理 由
上告人本人の上告理由は、末尾に添えた書面記載のとおりである。
上告理由第一点について。
原審が所論実費計算の基準とした「実費実物及報酬額標準」丁第一号証によれば、労務者(壯年者)の報酬は食事自弁の場合に金五十円であり弁当代は一日につき十五円以内と定められているのであるから、議員候補者側において弁当代を負担する場合には右弁当代を含めて労務者の報酬を一日金五十円以内とする趣旨であること明瞭である。それゆえ、原審が所論労務者の報酬を弁当代を含めて一日金五十円と計算したことについては所論のような違法はない。
同第二点について。
原審は、証人水越文雄の証言によつて、所論労務者の内半数が女子であつたことを認定したこと原判文上明瞭である。そして、右証言によれば、かかる事実を認定し得られるのであるから、原判決には所論のような違法はない。
同第三点について。
原審は所論自動車代につき、上告人の主張にかかる被上告人水越玄郷が訴外城北運送株式会社の自動車を使用し金五千三百七十二円の運賃を支拂つたとの事実はこれを認むべき証拠がないものとして否定しているのである。それゆえ、議員候補者が選挙運動のため乘用した自動車の費用に関する原判決の説明に仮りに誤があるとしても、上告人の主張事実は結局証拠上認められないものとして排斥されているのであるから論旨は採用することができない。
同第四点について。
原判決は「特別の事情のない限りこの標準によつて計算した自動車の使用料を選挙運動費用と認定するを相当と認める」と説明し、「この標準」とは公定價格を指すこと判文上明瞭である。そして、原審が所論使用料を公定價格をもつて計算したことは、もとより正当であるから、原判決には所論のような違法はない。
同第五点について。
いずれの鑑定の結果を採用するかは、事実審たる原審に委ねられている自由裁量の問題である。それゆえ、原審が所論石井眞次の鑑定の結果を採用しなかつたことを非難する論旨は理由がない。
よつて、本件上告を理由ないものと認め、民訴法第四百一條第九十五條第八十九條に從い主文のとおり判決する。
以上は、当小法廷裁判官全員の一致した意見である。
(裁判官 長谷川太一郎 井上登 島保 河村又介 穗積重遠)
上告人大木貞次の上告理由
第一点
一、昭和二十二年四月施行せられたる東京都議会議員選挙に対し昭和二十二年五月二十三日付を以つて当選せられたる事の無効を求むる訴を提起し昭和二十二年(ナ)第五号東京高等裁判所に於て受理昭和二十四年十二月二十二日主文原告の被告等に対す各請求を棄却する。訴訟費用原告の負担とする。判決ありたるも衆議院議員選挙法第百三條及び同法第百四條に違背して居るから理由を詳述する。
一、判決文中(六枚目七行目より)松見被告は本選挙運動に使用した労務者に対し右(イ)(ロ)(ニ)各項掲記した一人一日金三十円の割合による労務者名義の報酬の外に別に弁当料名義で一人一日十五円の報酬を支拂い同名義で原告の摘記した別表上段の記載とは別に選挙運動費用の届出をしていることが認められるから、被告の支拂つた労務者の報酬は結局一人一日四十五円であることが明かであり、この認定を左右する証拠はない。然るに証人鈴木高吉の証言(第一二回)及び同証言により眞正成立したものと認められる丁第一号証によると、葛飾区選挙委員会では本選挙運動につき、各候補者に対し選挙運動に使用する労務者の報酬額の基準を示したがこれによると壯年一人一日(実働八時間)報酬五十円と指示していることが認められ、本選擧における労務者の基準によつて計算するを相当と認める。從つて、被告の使用した労務者の報酬も右基準によるべきであるから被告の支拂つた前記労務者の報酬は一人一日につき五円ずつ少なく、結局被告は届け出た労務者の報酬額よりも二百四十五(前記(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の延べ人員合計四十九人分)だけ多くの労務者使用による選擧運動費用を要したものというべきである。被告はその使用した労務者の実働時間は一日二、三時間から四、五時間を出なかつたから被告の届出た労務者の報酬額は相当であると主張するけれども、右事実を認めるに足る証拠がないから被告の主張は採用できない。
右の通り労務者一人一日五十円たることを裁判所は認めて居るけれども、弁当料十五円を含めて五十円と計算して居ることは誤つて居る。其の理由は葛飾区選擧委員会に於て示した基準に依れば労務者の報酬は一人一日五十円外に弁当代一人一日十五円とあり、弁当料を別に支拂う場合は計金六十五円と算定すべき筈なるに判決文によれば之れを五十円也と算定したる事は前記の通りであつて、即ち十五円の誤差の認定は選擧法第百三條に依る時價の判定を誤り選挙法全体に重大影響を及ぼすものにして同法に違背したものと云うべし。
第二点
一、被告水越玄郷に対する労務者使用に対する報酬認定に対し婦人を半数位使用したとの被告の主張を採用し何等の証拠のないにも不拘婦人を半数使用したものとして算定し判決したことは即ち衆議院議員選挙法第百三條に時價に見積る此の見積りを誤つて居るから同條に違背したものである。
婦人を半数と認定したる事は不法である。何故なれば婦人を使用した時は其の旨届出べき單に労務者と届出たる時は壯年者と解すべきものである。
第三点
一、被告水越玄郷は(判決文十枚目二十八行より)大型トラツクを五、六回二時間位ずつ無償提供を受けて自ら乘用して選挙運動に使用した事は裁判所に於て認定して居り乍ら、衆議院選挙法第百四條第一号を適用し選挙運動費と認めないことは違法である。同法第百四條第一号には單に議員候補者が乘用する舷車馬等の爲めに要したる費用。と有り運動に使用したる舷車馬とはなく、而かも貨物自動車に労務者運動員と共に選挙運動たる事を表示し大々的お祭り騒ぎを演じても候補者が乘事して居つたから運動費とならないとの判決は違法であると言わなくてはならない。
第四点
一、被告松見に対する自動車使用に関し被告の主張を認め公價以下に認定したる事同法第百三條に該る時價の認定を誤りたるものと言うべし。当時自動車の使用は極度に制限せられ公價は配給の「ガソリン」に限つて居たのであり選挙のための配給は無かつたのであります。故に選挙に使用したるものは総て公價以上であつた事は当然であるから、其の算定に公價を以てするのだから時間の如何に不拘公價を以て算定するのが当然であると信ずる。
第五点
一、拡声機の使用料に付て判決では公價がないからとの理由で、被告の主張通り認定した事は時價の見積りを誤つて居ると言わなくてはならない。即ち被告に有利な鑑定のみ採用し公正な石井直次鑑定人の鑑定は総て採用せず判決した事は不法であると云わなくてはならない。
一、本件判決の結果選挙法の大なる欠点を知る上告審に於てこれを明確に致したく、本件は選挙しゆくせいを以て訴を提起したもので他に同志が区会議員二十三名の当選無効訴を提起し居り、社会に及ぼす影響も重大であるから法の嚴正を期するため本上告の受理を御願いする。